イカのかたちと種類編

  • Q1
    イカって魚屋に売っていますが魚ですか?
    A

    いいえ。イカは背骨を持った脊椎《せきつい》動物の魚ではありません。背骨を持たない無脊椎動物のうちの軟体《なんたい》動物というグループ(門)に属しています。軟体動物の主流は巻貝や二枚貝などの貝類です。

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  • Q2
    でも、貝類と同じ仲間だというのに、貝殻はないのですか?
    A

    コウイカ類の持っている舟のような形をした「イカの甲」が貝殻です。

    「イカの甲」は貝類の場合のように柔らかい体を貝殻が外から包んでいるのではなく、外套膜《がいとうまく》の筋肉中の袋に包まれて存在し、「浮き」として機能します。ケンサキイカやスルメイカ(ツツイカ類)では俗に「骨」と呼ばれる背中にあるプラスチック製のような「軟甲」も貝殻です。おもしろいことに、英語では軟甲のことを「ペン」といいます。昔、筆記用具にしたという鳥の羽毛に形が似ているからでしょうか。

    「生きている化石」と呼ばれるオウムガイ類や化石のアンモナイトはイカやタコの祖先というより親戚ですが、巻いた貝殻が体の外側にあるところは巻貝に似ていますね。

    【図】イカの体
    イカの体

    コウイカ(撮影:堀川博史)/コウイカの甲/スルメイカの軟甲
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  • Q3
    とんがっているほうがイカの頭でしょうか?
    A

    いいえ。俗に「みみ」とか「えんぺら」と呼ばれる三角帽子のようなのは鰭《ひれ》で、それは胴体(外套膜)の後部についていますから、鰭のあるとんがったほうはイカの「後」です。眼や口のある頭部のあるほうが体の「前」です。ですからイカの10本の足は頭から直接生えているわけです。この特徴からイカ・タコは「頭足《とうそく》類」と名づけられています。ちなみに色が濃く、貝殻のあるちょっと硬いほうが背中で反対側が腹側ということになります。これでイカの前・後と背・腹がわかるので、おのずからイカの右・左もわかるでしょう。

    タコは「蛸坊主《たこぼうず》」といわれて、マンガでは鉢巻きを締めていますが、そこは内臓の入った胴体で、やはり眼のあるところが本当の頭です。ですから、マンガのタコは鉢巻きではなく「胴巻き」をしていることになりますね。

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  • Q4
    イカって何種類くらいいるの?
    A

    世界の海におよそ500種知られています。日本近海にはそのうち140種くらい確認されています。しかし、これまで知られていなかった新種のイカの発見や、従来二種類だと思われていたものをよく見たら実は一種類(親子とか雌雄)だったり、反対にずっと一種類として扱われていたもののなかには別の種が混ざっていたりして、なお種類数は確定していません。

    たとえば最近でも新種が発表され少しずつ種数が増えています。アオリイカも実は3種からなっていることが知られていますし、分布の広いケンサキイカなどはこれからDNAの分析によって複数種に分かれる可能性があります。しかし、反対に別種と思われていたものが実は同種だったということもあります。例えば1973年に新種記載されたアブライカは、のち1962年に記載されたフィリピンスルメイカと同種と判りましたが、更にそれは1912年に新種記載されたハワイスルメイカと同種と認められましたので、2種減ったことになります。また、ダイオウイカはかつては海域ごとに別種とされ多数の学名がありましたが、現在はDNAの分析結果から世界中で唯1種とされました。このように種の数の増加があるいっぽう減少もあるので、最終的には何種類になるかはまだ世界中の学者が研究中です。

    ちなみにタコはイカよりももっとよくわかっていません。おそらく、世界に300種くらい、日本近海には60〜70種ほどいると思われます。比較のためにいうと、化石頭足類のアンモナイト類は2万種も地中から掘り出されていますから、現在地球上に生きているイカ・タコ類の多様性は化石時代より低いといえるでしょう。

    Berry が1912年に記載した ハワイスルメイカ/Voss が1962年に記載した フィリピンスルメイカ/Okutani & Uemura が1973年に 記載したアブライカ
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  • Q5
    日本人が発表したイカの新種はどのくらいあるのでしょうか?
    A

    日本近海(かなり沖合まで)には約140種前後のイカがすんでいると見積もられています。多くの学名は18世紀リンネ以来の欧米の学者によって名付けられていますが、1910年代からは佐々木望《まどか》、脇谷《わきや》洋次郎、石川千代松、石川昌《まさし》、瀧巌、近年では奥谷喬司、窪寺恒己《くぼでらつねみ》、土屋光太郎などが38種ほどを新種として記載発表しています。この中にはもともとはカリフォルニア、ベーリング海、南西太平洋などから奥谷らによってそれぞれ新種記載された3種が含まれています。

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  • Q6
    イカの分類を教えて下さい。
    A

    イカは現生の頭足類(軟体動物門・頭足綱《こう》)のなかではオウムガイ上目《じょうもく》、コウモリダコ上目、八腕形《はちわんけい》上目に対立する十腕形《じゅうわんけい》上目に分類されています。そのなかをトグロコウイカ目(1科)、コウイカ目(2科)、ダンゴイカ目(3科)、ツツイカ目(28科)の4つの目《もく》に分けるのが普通です。科の分け方も研究者によって色々な見解があり細かい部分でもDNAによる新たな情報もでてきて、見直されつつあります。最近では新しい科も提唱される代わり、今まで用いられていた科が他の科に併合されたりすることもあります。

    【図】軟体動物の仲間分け
    軟体動物の仲間分け
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  • Q7
    イカの足のことを「腕」と書いてありますが、足ですか?それとも腕ですか?
    A

    動物学的には足です。食べる時はイカの足とか「ゲソ」(下足から)といいますでしょう? しかし、イカはその足で餌を捕まえたり、雌を抱きかかえたり、物を運んだりできるので、習慣的に「腕」といいます。私たち人間も本来は4本足ですが、両方の腕のことを誰も「前足」とはいわないのと同じことです。

    イカの場合は背中側から腹側に向かって左右第一腕から第四腕まで4対の腕があり、第三腕と第四腕の間から伸縮自在の餌捕獲用の触腕《しょくわん》という特殊な腕が出ていますので、俗に「タコは8本、イカは10本」というわけです。

    10本足のイカ(上:スルメイカ)と8本足のイカ(下:タコイカ)
    10本足のイカ(上:スルメイカ)と
    8本足のイカ(下:タコイカ)

    でも、イカのなかには、触腕を持たない8本足のイカがいます。たとえばタコイカやヤツデイカの仲間がそうです。しかし、彼らも小さな子どもの間は触腕を持っていて10本足ですが、成長とともに自然に脱落してしまうのです。また、なかには産卵を終える頃、触腕が切れてしまうイカもいます。

    ですから、触腕はイカにとって餌を捕るために大切なものではありますが、どうしてもなくては生きていけないというものではないような気がします。その証拠に漁船に釣られた拍子に触腕が切れてしまっても命永らえたイカが次の時にまた釣り針にかかって釣られることからもわかります。

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  • Q8
    イカといえば吸盤ですが、イカの足の吸盤とタコの吸盤の違いはどこでしょうか?
    A

    タコの吸盤《きゅうばん》は柔らかい肉質で、ちょうど車の窓などにペタリとくっつけるマスコット用のビニール吸盤と同じ原理で吸着します。吸盤のくっつく面には筋肉が放射状と同心円状に配置しています。電子顕微鏡で見ると放射状筋の上にさらに超微小な吸盤が並んでいます。タコの吸盤はいつでも吸着力を維持するのに、吸着面をつねに新鮮に保つため吸着面は「脱皮《だっぴ》」します。水族館でタコの水槽を見るとドーナッツ型に剥《は》がれた吸盤の皮がふわふわ浮いているのを見る事があります。

    イカの吸盤は筋肉でできたお椀《わん》型で、その内縁に沿ってキチン質の環がはまっています。その環の内側には尖った歯のようなギザギザがついていますが、これによって餌などにしがみつくわけです。イカの吸盤はタコと違って腕に直接ついているのではなく、細長い柄があり、ちょうどワイングラスのような形をしています。この柄があるのは、イカは遊泳中の魚類などを捕まえるので、餌が暴れても吸盤がはがれないように「遊び」が必要だからです。

    イカのなかには腕や触腕の吸盤環が鈎《かぎ》に変形しているものもあります。初めは丸い環としてできるのですが、成長とともに左右からつぶれて空所がなくなりその一端が手前に曲がって鋭い鈎になります。ツメイカとかカギイカなどは触腕の鋭い鈎列を持つところからついた名前です。ホタルイカも鈎を持っています。富山名産のホタルイカの「桜煮」を食べる前に触腕の先を、ちょっと眼を凝らして見て下さい。

    マダコの吸盤/スルメイカの吸盤(触腕)/ツメイカの鈎(触腕)
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  • Q9
    ダイオウイカなど巨大なイカが知られていますが、どれくらい大きいイカがいるのでしょう?
    A

    数年前、当時国立科学博物館におられた窪寺恒己博士が小笠原近海でダイオウイカを釣り上げるのに成功して話題になりましたが、日本近海にすむダイオウイカは胴長が約2m、触腕の先端まで測ると4.5mくらいです。ギネスブックによると、これまでの最大の記録は1879年1月30日の「ボストントラベラー」誌に載ったニューファウンドランドに漂着したダイオウイカで、口の先から体の後端まで(=胴長+頭長)が6.6m、触腕1本が11.5mであったという話です。また、その後バハマ諸島からは全長14mのイカが見つかったともいわれています。

    ダイオウイカ類が「ジャイアント・スクィッド」と呼ばれますが、別に「コロッサル・スクィッド」と呼ばれる巨大イカ、ダイオウホウズキイカが環南極海に分布していますが、胴長2.5mにもなります。このイカの体は寒天質に富んでいてぶよぶよしていますが、鰭《ひれ》が大きいのでいっそう大きく見えます。

    ダイオウイカ(日本海に漂着)外套長1.8m。触腕は失われている(撮影:窪寺恒己)
    ダイオウイカ(日本海に漂着)外套長1.8m。
    触腕は失われている(撮影:窪寺恒己)
    全長7mのミズヒキイカ ©JAMSTEC
    全長7mのミズヒキイカ
    ©JAMSTEC

    また、潜水調査船の映像に、ハワイ沖の深海でこれまで知られていなかったミズヒキイカが写っていましたが、このイカは短い外套膜に比べて腕が非常に長く、腕の先まで測ると全長7mくらいにもなります。

    どんな大きなイカでも海から出て来て人を襲うことはありません。それは西洋のクラーケン(海魔)伝説の世界の話です。ちなみにタコのなかで、最大のタコは北太平洋にすむミズダコですが、大きな雄で腕を広げたら左右長で3mくらいのものが最大級のものでしょうか。

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  • Q10
    では最小のイカって何?
    A
    最小のイカ、ヒメイカ(Sasaki, 1929より)
    最小のイカ、ヒメイカ
    (Sasaki, 1929より)

    わが国近海ではヒメイカです。胴長が16mmくらいでアマモの生い茂っている浅瀬や藻場にすみ、外套膜の後背部にある粘着《ねんちゃく》細胞によってアマモやアオサなどの葉の裏に付着する性質があります。ヒメイカは佐々木望博士によって大正時代に和名がつけられたときは「ヒナイカ」でしたが、いつの間にかヒメイカとなってしまいました。わが国にはヒメイカは1種と思われていましたが、最近アフリカヒメイカが瀬戸内海で発見されました。姿や大きさはヒメイカとあまり違いません。

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  • Q11
    イカの眼は良いそうですね?
    A
    イカの眼球(上)とヒトの眼球(下)
    イカの眼球(上)と
    ヒトの眼球(下)

    下等な軟体動物の眼がこのように高度に発達しているのは驚きです。イカは触る事もできず、匂いももれないガラス瓶に入れられた餌を眼で見るだけで襲おうとします。この実験によってもイカの眼による認識力の確かさがわかるでしょう。

    スルメイカの眼の網膜には桿状《かんじょう》細胞が一平方ミリメートルのなかに16万個も並んでいます。ただ脊椎動物の眼と違うのは、脊椎動物の場合、視神経は集まって一束になっていますが、イカやタコではひとつひとつの視細胞から1本ずつ神経が出ています。集魚灯に集まるスルメイカの眼を見ると桿状細胞のなかには黒い色素を持っていて、強い光に接すると黒い色素は上のほうに上がってきてあたかもサングラスをかけたような効果をもたらすという研究もあります。

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  • Q12
    イカには心臓が3つあるって本当ですか?
    A
    イカには心臓が3つある
    イカには心臓が3つある

    はい。イカも他の動物と同様に本来の心臓があります。しかし、活発な運動性のあるイカにとって、鰓《えら》でガス交換をするためには鰓にもっと能率良く血液を送る必要があるのでしょう、1対の鰓の根もとに1つずつポンプがついています。そのポンプを鰓心臓と呼びますので、本来の心臓と合わせてイカとタコには3つ心臓があるといわれます。

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