全国いか加工業協同組合 60年のあゆみ

(「60年のあゆみ」製本版からの抜粋)

1. 創立から50周年(2015年)までのあゆみ

1964(昭和39)年近海スルメイカ漁は、前年の半減という大不漁となりました。この結果、干しするめ価格が高騰し、これを主原料とするいか加工業者の経営を直撃することになりました。政府は物価対策もあり、当時、非自由化品目であった干しするめについて、需要者団体に対し韓国産干しするめの輸入割当を行いましたが、これを巡って、既存の需割団体への加入に難色を示された加工業者が結集し、1965(昭和40)年5月に当団体を設立することになりました。

当時、加工業者にとって最大の経営課題は原料の安定した入手と金融問題でした。組合は設立されるや直ちに両課題に取組み、1965(昭和40)年5月の第2回割当では需割団体のひとつに加えられ、金融面でも1965(昭和40)年農林中金から6億9千万円を借入れ、預託運営方式による金融事業を開始します。

1965(昭和40)年設立時の組合名は「全国するめ加工業協同組合」でしたが、その後原料形態が次第に「するめ」から「生いか」に移行するようになり、1968(昭和43)年には定款を変更し、事業の対象に「生いか」を追加し、同様に組合員資格の「するめの加工を行う業者」に「生いか」を追加しました。

また、1971(昭和46)年には冷凍いかの需割団体にも加えられ、この様な事情を背景に、1980(昭和55)年には組合名を「全国いか加工業協同組合」に改めました。

「共同購買事業」「金融事業」の経済事業はその後、社会・経済情勢の変動に影響されながらも組合事業の柱として発展しましたが、金融事業については、金融機関の破綻・合併等金融環境の変化に伴い、2001(平成13)年12月に役目を終えることとなりました。またこれらの2事業の他に「教育・情報事業」を含め3つを組合事業の柱として展開してきましたが、一方では、消費者嗜好の多様化が急速に進んだことから、組合員の取扱商品もいか加工品にとどまらず、いか以外を原料とする水産加工品や豆、米菓、チーズ・サラミ等の畜肉製品まで広がりを見せています。さらに、「食の安心・安全」への消費者の関心の高まりと、食品表示の改正や水産物の輸出等に対応するため、様々な事業を展開するようになりました。

2. 組合活動の概況と変遷(2015年以降)

1) 全般

このセクションでは、2015(平成27)年度以降からの約10年(2024年まで)の事業環境とそれに伴う組合活動の動きを年単位で経時的にまとめました。

2016(平成28)年から2024(令和6)年にかけての約10年は、我々「いか加工業」にとって大変深刻な事業環境の期間になりました。特にスルメイカの国内漁獲量は、この10年の間に段階的かつ大幅に減少を続け、2024(令和6)年においては15,263トンまで減少しました。これはこれまでのスルメイカ漁獲量の最小値で、2015(平成27)年の105,910トンと比較すると14.4%、2011(平成23)年の208,211トンと比較すると7.3%まで減少したことになります。

この結果、原料の調達については、国産スルメイカに代わって海外原料に頼らざるを得ない環境となりましたが、輸入枠の不足(漁獲量に比例しない発給状況)や、外国為替(円安)の影響、また海外の漁獲についても必ずしも安定的でないなど、年々原料の調達環境は厳しさを増し、組合員の事業経営は総じて難しい環境が続きました。さらに、2019(令和元)年頃より始まった新型コロナウイルスの蔓延は、当業界のみならず社会生活に多大の影響を与え、組合活動も制限されることが多くなりました。その影響は2022(令和4)年頃まで続くことになりました。

注)以下の本文中にある「いか輸入枠」の発給年度は、例年年度末に発給されるため、実質的に使用できる年度は、発給年度の翌年になります。

2) 2016(平成28)年度の動き

この年のスルメイカ国内漁獲量(以下漁獲量と略す)は、63,660トンで前年の約60%(前年105,910トン)となり、当時としては突出した下落幅であったため、危機的な資源水準と評されていますが、まだこの時点では一定の原料在庫もあり、おそらくこれから先の大減産については予測する余地もなかったと思われます。この環境下で輸入加工原料の調達競争が激化し、各団体より輸入枠の不足の懸念から、増枠要請を行い、いか輸入枠(追加枠)が発給されました。また、組合事業については大きな支障は無く、概ね計画通りに行われました。

3) 2017(平成29)年度の動き

この年の漁獲量は、53,940トン(前年比約85%)と前年と比較してさらに漁獲減少が進み、これにより2016(平成28)年度もいか輸入枠(追加枠)が、発給されましたが輸入原料の高止まりなどもあり、期待した調達には至らず、発給された輸入枠は一定数の次年度への繰り越しがありました。

これらの事情を理解してもらうため水産庁(貿易班)と組合役員との意見交換会を実施し、現状の共有と理解に努めました。

その他の組合事業については特に支障なく計画通りに行われ、特にセミナー系の事業の参加人数は堅調に推移しました。

4) 2018(平成30)年度の動き

この年の漁獲量は、41,700トン(前年比約77%)と前年度よりさらに漁獲量の減少が進みましたが、原料価格の高値推移により、前年度枠が余剰気味となり、この年のいか追加枠は減少しました。その影響もあり組合内の配分においては、希望数の充足率(配分数/希望数)がいか枠48.5%(2017(平成29)年度枠)、干しするめ枠も27.1%と大変厳しい状況に至りました。

なお、この年よりロシア産のスルメイカの輸入が開始され(初年度は120トン程度)、その後は2022(令和4)年頃までは年間5,000トン強の輸入が続き、一定の効果を産みましたが、2023(令和5)年以降は漁獲自体が低迷し、輸入量も大幅に減少しました。また、この年度に「自民党水産加工専門部会(武部新会長)」が発足し、水産加工業者と自民党、水産庁他関係省庁との意見交換の場が設定されました。その他の組合事業については概ね計画通りに行われ、特記事項としては「イカ学Q&A60」(Q&A50の増補版)を発刊しました。

5) 2019(平成31,令和元)年の動き

この年の漁獲量は、32,860トン(前年比約79%)とさらに漁獲量の減少が進みました。引き続き輸入割当の追加枠(2018(平成30)年度分)が発給されますが、組合内では希望数に対して十分な配分ができない状況が続きます。

希望数の充足率(配分数/希望数)は、いか枠については88.5%(2018(平成30)年度枠)に回復しましたが、干しするめ枠(2019(令和元)年度枠)では24.4%(前年は34.2%)と引き続き不足感が目立ちました。

組合事業については概ね計画通りに進みました。特記事項として販路開拓事業の強化を目的に「東京都組合まつり」への出展を行いました。これは今後組合として展示会出展を実施していくためのテストケースとなりました。

6) 2020(令和2)年度の動き

① 概況として

この年の漁獲量は、37,085トン(前年比約113%)とやや回復基調に至りましたが、長続きしませんでした。

いか輸入割当の追加枠は15,000トン(2019(令和元)年度枠)が発給されますが、輸入枠の不足はさらに深刻な状況となり、当組合の充足率はいか枠(2019(令和元)年度枠)70.1%、干しするめ枠(2020(令和2)年度枠)では32.7%と依然として厳しい状況が続きました。この背景としては、当年度は日本海におけるIUU漁業の活発化が問いただされ、輸入枠の増枠がIUU漁業の助長になり得るとして、元々輸入増に否定的な姿勢の漁業者団体への省庁の配慮が、増枠のブレーキになったものと推察しています。

また、組合事業においては、展示会出展事業でより本格的なジャパンインターナショナルシーフードショーへの出展を行いました。以降、この展示会は販路開拓事業の中核的な存在になっていきます。

② 新型コロナウイルス蔓延の影響

この年より新型コロナウイルスの蔓延が社会問題化し、対面での会議等は軒並み中止となりました。これにより、当組合の通常総会も役員のみの少人数開催となり、従来規模の総会の開催は困難な状況に至りました。

また、この年度はマスクの不足が社会問題化しており、組合員各社においてもマスクの調達が困難になっていました。そのため、組合事業としてマスクの共同購買を実施し、希望数通りの提供を実現しました。事業参加率も組合員の64%と大変好評を得ました。

その他の組合事業についても、新型コロナウイルスの影響により中止またはリモートでの開催が定例化しましたが、形を変えながらも事業は可能な限り実施しました。この影響でセミナー関係は需要が激減しますが、リモート受講の併設などにより新たな需要の掘り起こしに繋げることもできました。また、理事会においてもリモート参加が可能となるシステム(ZOOM)を導入し、現在も運用中です。

7) 2021(令和3)年度の動き

この年の漁獲量は、24,587トン(前年比約66%)と一層の漁獲減少が進みました。いか輸入枠(追加枠)についても横ばいの15,000トンであったため、さらに希望数との乖離が進みました。この年の充足率はいか枠(2020(令和2)年度枠)で80.1%、干しするめ枠(2021(令和3)年度枠)では28.8%でした。

コロナ禍において、各事業のリモート化がさらに進みますが、悪い面ばかりではなく、今までは対面での参加が難しかった遠隔地の組合員の新たな参加につながるなどのメリットもありました。また、通常総会は2年続けて役員のみの少人数開催となりました。

その他の組合事業については、コロナ対策としてマスクに続き、ニトリル手袋の共同購入を計画しましたが、用途の多様化などから実現できませんでした。

また、コロナの影響により各事業への参加率の低迷が目立って来ましたが、活動自体は新規の事業も含めてより積極的に実施しました。

8) 2022(令和4)年度の動き

① 概況として

この年の漁獲量は、22,120トン(前年比90%)とさらに漁獲減少が進みました。いか輸入枠(追加枠)については25,000トン(2021(令和3)年度枠)と10,000トンが増加されましたが希望数との見合いでは依然不足感は否めませんでした。この年の充足率はいか枠(2021(令和3)年度枠)で76.8%と悪化、干しするめ枠(2022(令和4)年度枠)では43.1%と依然十分でない状況が続きます。これらの結果、新規の配分希望者には配分が行き渡らない状況が続いており、これらの解消(行き渡る様に)などを目的に、当年度より新たな「輸入枠配分方法に関する規約」および「輸入枠配分方法に関する規約細則」を制定し、その運用を開始しました。

また、この年度より「スルメイカ漁況・市況情報(FAX配信)」から「おさかなひろば(Web提供)」へ切り換えを行いました。

② コロナの収束期を迎えて

コロナ禍も一定の収束期を迎え、各行事もリモートから対面化に戻りつつある過程で、コロナ感染の検査キットの需要が高まり、この事業化を行いました。

  • PCR検査キットの購入補助 組合内利用率23%
  • 抗原検査キットの無償頒布 組合内利用率44%

会議などのリモート参加の形式は、コロナ禍が収束しても、すべてが対面方式に戻るということではなく、対面とリモートの共存(ハイブリッド)という新たな環境に移行しました。

9) 2023(令和5)年度の動き

この年の漁獲量は、15,664トン(前年比71%)とさらに漁獲減少が進みました。これに伴い魚価も高騰が続き、年平均でスルメイカがkgあたり842円(冷凍品については1,071円)、ムラサキイカが949円と未曾有の高値になりました。輸入枠(追加枠)については25,000トンが発給されますが、この年の充足率はいか枠で60.7%(2022(令和4)年度枠)、干しするめ枠(2023(令和5)年度枠)では64.0%と特にいか枠においては、過去にない不足感に至り、この不満の声が組合の内からも多く上がり(他団体も同様な状況)、この対策として、需割配分を受ける主な4団体(全水加工連、全珍連、全調食と当組合)による陳情活動を実施しました。この結果関係省庁に一定の理解を得て、当年の10月には2回目の追加枠15,000トンが発給されました(1回目、2回目合算で40,000トン)。

組合事業においては、当年度より「持続化対策事業(旧原料対策事業)」が開始され、販路開拓事業においては「シーフードショー」に加えて、「スーパーマーケットトレードショー」へも組合出展を開始しました。

また、この時期からコロナの影響も薄れ始め、全般的に各事業への参加者数は回復基調となりました。

10) 2024(令和6)年度の動き

この年の漁獲量は、15,263トン(前年比97.4%)と過去最低を更新しました。これに伴い魚価も年平均でスルメイカがkgあたり929円(冷凍品については1,692円)、ムラサキイカは701円と幾分落ち着きを見せました。結果的にこの10年においては、2024(令和6)年まで漁獲量の減少は継続しています。

いか輸入枠追加枠(2023(令和5)年度枠)については、前年度の追加枠の1、2回目の合算数量と同じ40,000トンが発給され、この年の組合の充足率はいか枠で90.4%、干しするめ枠(2024(令和6)年度枠)では100%と数字上は大幅な回復に至りましたが、その要因としてはアメリカオオアカイカの不漁による輸入原料の不足と価格高騰による影響(買いたくても買えない状況)が大きかったと考えられます。

さらに翌年(2024(令和6)年度枠)のいか枠も2023(令和5)年度とほぼ同数量が発給されますが、輸入原料の調達状況はさらに厳しさを増し、各社とも輸入の目途が立たず充足率は100%となりましたが、これは決して供給が過多に転じたものではないと考えられます。

その他の事業については、ほぼ計画通りに実施され、販路開拓事業においては前年度に引き続き「シーフードショー」「スーパーマーケットトレードショー」への出展を行いました。

2. 組合事業活動の今後の展望

50周年記念行事が行われた2015(平成27)年度以前とその後の最近10年の活動内容を比較してみると、最近10年は、事業の内容が年々変化して来たことが感じられると思います。これは以前の加工原料(特にスルメイカ)が比較的に安定的であった時代とは異なり、原料環境の変化や新型コロナウイルスの蔓延など業界を取り巻く環境が極めて速い速度で変化し、組合事業活動もその変化にスピーディーに対応できることが求められた結果と感じています。

おかげさまで、現在では、後段の各事業はいずれも一定の評価をいただき、着実に成果に近づいている実感があります。なお、今後の着目すべき課題としては、年々増加傾向にある組合員の脱退です。その脱退理由の多くが法定脱退*ですので、当組合としましても安定的な経営支援につながるテーマに取り組んで行く必要があると考えます。同時に自由脱退の防止策としては、組合員の規模を問わないサービス提供が重要と考えております。

法定脱退:法人の解散等により組合員資格を喪失等の事由による脱退。自由脱退とは異なる。

昨今は中規模以上の企業向けのサービスが事業の中心となる傾向にあり、小規模企業から期待されるサービスへの取り組み増強が今後の重要な課題と感じています。今まで以上に組合員の声を聴く(コミュニケーションの)機会を増やし、期待されることの把握に努めたいと考えます。

会員の脱退による組合員数の減少については、今後の陳情活動などへの影響を考えれば、一定の組合員数を維持することが重要なことだと認識をしております。

先ずは会員数80~100名の維持を当面の目標として、新規会員の加入促進と現会員の維持に引き続き注力をしてまいります。

これからの10年に向けて今後組合が目指すこと

1. スピーディーな新事業への対応

これからの10年は、おそらく環境変化の速度がさらに加速し、よりスピーディーな変化対応が求められる時代になると考えています。その中で組合としては、もっと「組織力」「起動力」を身につけ、組合員が新たに取り組もうとするテーマや新しい事業機会を見つけることへのさらなる支援ができればと考えます。

2. これからの10年に向けての重視点

当面は以下を重視点として捉えて、活動を推進してまいります。

1) 組合の「組織力」「起動力」の強化へ
  • 今まで以上に近い距離での組合員とのコミュニケーション
  • 組合規模(組合員数)の充実
  • 組合と組合員企業の世代承継、第2世代の育成
  • 支部会、委員会活動の充実
2) 組合員の経営課題への取組強化

組合事業の利用率向上は組合員数を維持していく上でも、重要課題の一つと考えております。この利用率は組合の価値を計る重要なバロメーターであると考えられ、2024(令和6)年度現在の利用率が全組合員の44%と半数にも満たないことは注視すべき点になります。これについては、今まで以上に組合員の声を聴く(コミュニケーションの)機会を増やし、双方からの視点で課題を捉え、組合員から期待されることの把握に努めたいと考えます。

  • 「いか」に拘らず、新しいテーマや事業機会を見つけるきっかけをサポート
  • 「原料の安定」「人材の安定」「販路の安定」「価格の安定」「海外での競争力の強化」を目指す取り組み
  • 頑張っている組合員企業を応援できるサポート体制
  • 補助金等の経営支援事業を充実、支援事業に取り組みやすいフォロー体制を確立
  • 小規模企業向けの組合事業を再構築

以上