イカについて

イカ学Q&A60

イカの利用と栄養

  • Q34
    日本人がよく食べているイカにはどんな種類がありますか?
    A
    アカイカの大漁 国立研究開発法人水産研究・教育機構
    アカイカの大漁
    (国立研究開発法人水産研究・教育機構)

    日本各地で漁獲され広く利用される種はスルメイカ(西日本〜北日本)ですが、ヤリイカ科のヤリイカ(九州〜北海道)、ケンサキイカ(山陰・九州〜相模湾)、アオリイカ(沖縄〜四国・九州)もあります。沿岸性のコウイカ科のコウイカ(瀬戸内海〜東京湾)、カミナリイカ(九州〜瀬戸内海)、シリヤケイカ(九州〜常磐)、トラフコウイカ(沖縄〜九州)もよく食べられます。ごく限られた地方で魚市場に出る種にはコブシメ(沖縄)やウスベニコウイカ、テナガコウイカ、ヒメコウイカ(瀬戸内海〜九州)などの他、ミミイカ(瀬戸内海)やジンドウイカ(北海道〜九州)などがあります。沖合性の種類ではホタルイカ(山陰〜富山湾)、アカイカ(三陸沖)、ソデイカ(山陰・沖縄・小笠原)やトビイカ(沖縄)が市場に出ます。

    日本では近海産ばかりでなく多くの海外イカが主として加工品として食べられています。アメリカオオアカイカ、アルゼンチンマツイカ、ニュージーランドスルメイカ、アメリカヤリイカやアジアジンドウイカ、ヨーロッパコウイカ他東南アジア産のコウイカ類などが利用されています。

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  • Q35
    イカの加工はいつから盛んになりましたか?
    A

    イカ加工業は1945(昭和20)年終戦後、約30年間で飛躍的に発展しました。その理由のひとつは、スルメイカが大量に安い価格で獲れたことです。また、昭和30年代後半から始まった高度経済成長により、たくさんの需要があり、また技術革新(機械化)により量産が可能となり、近代化へのステップを踏むことができたためです。

    このような中で、1965(昭和40)年全国するめ加工業協同組合(現在の全国いか加工業協同組合)が設立されました。

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  • Q36
    イカの加工品にはどんなものがありますか?
    A

    いわゆる乾燥珍味としては、干しするめ、さきいか、いかくん、くんさき、いか天、いか徳利などがあり、いわゆる生鮮珍味としては、塩辛、松前漬け、いかそうめん、いか焼きなどがあります。その他、いか飯、いか缶詰、いしる(イカの肝臓で作った魚醤油)などの加工品もあります。

    いか加工業者は全国に分布してますが、全国いか加工業協同組合の組合員の約半数は函館で、さきいか・塩辛・いかそうめんなどの製造を行っています。

    なお、組合でいういか天は、そば・うどんのトッピングのてんぷらのいかではなく、伸ばしたいかなどをフライにしたいか天・いかフライのことです。組合員のうち8社が大阪・広島で製造しています。

    江戸時代に北前船は最重要品の「塩(尾道で製造)」を求めて、最上級のスルメ、昆布、ニシンなどを尾道に運んでいました。そのおかげでいか天など海産物を使った商品が数多く作られたといわれてます。

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  • Q37
    イカの鮮度はどうして見分けますか?
    A

    イカが生きているときや、死んだ直後の非常に鮮度のよい状態では、筋肉が弛緩《しかん》しているので、色素胞が収縮しており、透明感が強く色味がありませんが、その後死後硬直が進むと、表皮の色素胞周辺の筋線維の収縮によって色素胞が拡大し、体表全体が赤黒く見えるようになります。その後、鮮度の低下に伴って色素胞は収縮し、体色は白く不透明になりますが、さらに鮮度が低下して腐敗すると細胞破壊による色素の漏出によって、再び赤褐色になります。以上のように、イカの体色は鮮度を反映して変化するため、イカの赤黒さは新鮮さの目安として重視される傾向にあります(Q20参照)。

    一方、水氷処理したり、イカ個体を積み重ねたりすると、非常に高鮮度でも体色が白くなることもあります。流通現場では「敷き氷」(砕いた氷の上にイカを重ならないように並べる方法)などの方法が取られていますが、このような積み重ねによりイカの体色が白くなる現象は、イカの色素胞が低酸素状態になることによって活動を停止するためと考えられています。

    スルメイカ(0°C貯蔵)の鮮度の時間経過(北海道立工業技術センター 吉岡武也提供)
    スルメイカ(0°C貯蔵)の鮮度の時間経過(北海道立工業技術センター 吉岡武也提供)
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  • Q38
    イカの美味しさの秘密はなに?
    A

    するめを噛むと味は唾液のほうに溶け出して、残渣《ざんさ》はほとんど無味になります。このように食品の味の成分は水溶性の成分であり、これを一般的にエキス成分といいます。魚介類のエキス成分は普通、含窒素成分(遊離アミノ酸、オリゴペプチド、核酸関連物質、有機塩基)と無窒素成分(有機酸、糖)に大別され、それらの種類と量によって様々な味がします。

    これまでに魚介類に特有な味の有効成分が解明された種類はクロアワビ、バフンウニ、ズワイガニ、ホタテガイ、アサリなどです。これらに共通して旨味と甘味の有効成分となっているのは、グルタミン酸とグリシンです。イカらしい味を特徴づける成分はまだよくわかっていませんが、関連成分を表に載せてあります。遊離アミノ酸として量的に多いのは、プロリン、グリシン、アラニン、ヒスチジン、アルギニンなどです。刺身にしておいしいイカはケンサキイカ、アオリイカ、ヤリイカなどですが、これらには甘味のアミノ酸であるグリシン、アラニン、プロリンが多く含まれています。

    なお、イカではこのような化学的な味だけでなく、あの独特のテクスチャー(歯ごたえや舌触り)の影響も大きいでしょう。

    魚介類の味を感じさせる主な成分 (mg/100g)
    クロアワビバフンウニズワイガニホタテガイスルメイカ
    グリシン 174 842 623 1,925 59
    アラニン 98 261 187 256 80
    グルタミン酸 109 103 19 140 3
    バリン 37 154 30 8 7
    メチオニン 13 47 19 3 12
    アルギニン 299 316 579 323 13
    AMP 90 10 32 172 61
    グリシンベタイン 975 7 357 339 571
    Na+ 191 73 200
    K+ 197 218 290
    Cl- 336 95
    PO43- 217 213
    『魚の科学』より
    太字の数値は呈味有効成分、スルメイカについては未定。
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  • Q39
    イカにはどんな栄養があるのですか?
    A

    イカは低カロリー、低脂肪、高タンパク質の食材です。さらにイカには成人病予防効果のあるタウリンやEPA、DHAなども含まれています。総コレステロール値が高いという心配があるかもしれませんが、その内訳は善玉コレステロール(HDL)が多く、悪玉コレステロール(LDH)は少ないので、むしろ健康に良いといえます。しかもコレステロールとタウリンの比が2以上だと血中コレステロールを抑制する効果があるといわれていますが、この値が食肉では牛肩ロース0.6、豚肉0.8、鶏胸肉0.3であるのに対し、イカは2.2〜3.1と高い値を示しています。

    各種魚介類可食部のタンパク質および脂質含量(『水産利用化学』より)
    各種魚介類可食部のタンパク質および脂質含量(『水産利用化学』より)

    私たちが食べたタンパク質は、最終的に筋肉や内臓、皮膚などの組織になりますが、その際、食べたタンパク質がそのまま体のタンパク質になるわけではなく、いったん消化管内でアミノ酸にまで分解され、腸管から吸収されたのち、体内で再び必要なタンパク質に合成されます。したがってタンパク質の栄養価はそのアミノ酸組成が重要となります。イカのタンパク質の栄養価をアミノ酸スコアーという指標でみますと、その値は、ヤリイカやスルメイカでは100ですが、なかには100を切っているものもあり、魚類に比べて劣っているようにみえます。その要因は第一制限アミノ酸であるバリンが基準値に達していないためなのです。しかし、バリンは日本人の主食になっている米には基準値以上含まれていますので、米飯と一緒に食べればこの必須アミノ酸を補足できます。なお、米のアミノ酸スコアーはリシンが第一制限アミノ酸となって65と低いのですが、リシンは逆に魚介類に多く含まれているため、日本人が常食してきた米と魚介類の組合せは栄養学的にも理にかなっているといえます。

    魚介類筋肉の一般組成
    エネ
    ルギー
    (kcal)*
    水分
    (%)
    タン
    パク

    (%)
    脂質
    (%)
    炭水
    化物
    (%)
    灰分
    (%)
    スルメイカ 8879.018.11.20.21.5
    コウイカ 7583.414.91.30.11.3
    マダコ 7681.816.40.70.11.7
    クロマグロ
    (赤身)
    12570.426.41.40.11.7
    マイワシ 21764.419.813.90.71.2
    マアジ 12174.420.73.50.11.3
    マサバ 20265.720.712.10.31.2
    マダイ 14272.220.65.80.11.3
    マダラ 7780.917.60.20.11.2
    サケ 13372.322.34.10.11.2
    *100gあたり。
    『五訂増補食品成分表2010』より
    各種魚介類可食部のタンパク質および脂質含量(『水産利用化学』より)
    魚介類のアミノ酸スコア
    * 第一制限アミノ酸
    (『イカの栄養・機能成分』より)
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  • Q40
    タウリンってどんな役割をするの?
    A

    タウリンは哺乳動物の筋肉には少ないアミノ酸類似の化合物ですが、カキやホタテガイ、イカ、タコなどの軟体類、クルマエビなどの甲殻類の筋肉、カツオやブリの血合肉などには多量に含まれています。これらの軟体類や甲殻類を、塩分濃度の異なった水槽に移すと、タウリンやグリシン、アラニン、プロリンなどの含量が明らかに変化することから、これらの成分は浸透圧調整に役立っていると考えられています。これらの生物では浸透圧調節に必須アミノ酸を用いるのはもったいないので、非必須アミノ酸やタウリンのようなタンパク質を構成しない成分を用いているのでしょう。

    タウリンの人に対する効果についてですが、コレステロール低下、コレステロール系の胆石溶解、血圧の正常化、肝臓の解毒能の強化、アルコールによる肝臓障害の予防、不整脈の改善、糖尿病の予防、視力回復などの作用を持つことが知られています。したがって、イカはこのようないわゆる成人病を予防する効果のあるヘルシー・フードといえます。

    コレステロールの多い食品/魚介類と食肉のタウリン含量
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  • Q41
    アレルギーの人もイカを食べても大丈夫?
    A
    アレルギーの原因食品(『食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書』より)
    アレルギーの原因食品
    (『食物アレルギーに関連する食品表示に
    関する調査研究事業報告書』より)

    エビ・カニを食べてじんま疹やぜんそく、アトピーなどの食物アレルギーの出る人は意外に多く、60〜70人に1人といわれています。食物アレルギーにかかると、アナフラキシーショックといって血圧低下や呼吸麻痺を起こして死亡する危険性もあるので、消費者庁では食物アレルギーを防ぐため、アレルギーを起こすおそれがある原材料を含む加工食品に対して表示制度を設けています。表示が義務化された特定原材料は、当初は小麦、そば、卵、乳・乳製品、落花生の5品目でしたが、2008(平成20)年6月からは、エビ・カニも特定原材料に加えられました。エビ・カニの主要なアレルゲン(アレルギーを起こす物質)は筋肉に含まれているトロポミオシンというタンパク質です。イカにも同様のタンパク質があるので表示推奨品目の1つになっています。その後、2013(平成25)年9月にも品目の追加があり、現時点では、表のように、特定原材料は7品目、特定原材料に準ずるものは20品目となっています。


    アレルギーを起こすおそれがある原材料の表示
    表示原材料
    義務化(特定原材料)えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生
    奨励
    (特定原材料に準ずるもの)
    あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン(計20品目)
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  • Q42
    イカ墨が癌《がん》に効くって本当ですか?
    A

    イカ墨にはこれまでにも、リゾチームによる防腐作用やメラニンによる瘍性《かいよう》(胃液分泌の抑制)作用などがあることが知られていますが、このほか、イカ墨に含まれるムコ多糖 - タンパク質複合体(プロテオグリカン)に抗癌作用があることが、マウスを用いた実験で明らかにされています。マウスに腫瘍《しゅよう》細胞を接種した後、2、4、6日目にプロテオグリカン試料を腹腔内に投与したところ、投与しないマウスは21日以内に死亡したのに対し、腫瘍摂種マウスの6割に対して治癒または延命効果を示すことがわかりました。このプロテオグリカンには腫瘍細胞に対する毒性はほとんど見られないことから、この抗腫瘍作用はプロテオグリカンによって活性化されたマクロファージがT細胞と協力して、体内の異物を攻撃することによると考えられています。イカ墨といえども隅には置けませんね。

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  • Q43
    EPA、DHAってどんな働きをするの?
    A

    EPA(エイコサペンタエン酸)の役割が明らかになったのは、グリーンランドのイヌイットが、デンマーク人と同程度の高脂肪食をとっているにもかかわらず、心筋梗塞《こうそく》の患者が著しく少ないという疫学調査の結果からです。この違いは、デンマーク人が主に畜産の肉類を食べるのに対し、イヌイットでは魚や海獣を主食にして

    デンマーク人とイヌイットの疾患発症頻度
    疾患名 デンマーク人* グリーンランドイヌイット
    急性心筋梗塞 約40人 3人
    がん 約53人 46人
    消化器系潰瘍 約29人 19人
    乾癬 約40人 2人
    気管支ぜんそく 約25人 1人
    慢性関節リウマチ よくある まれ
    潰瘍性大腸炎 よくある まれ
    憩室炎 よくある まれ
    *デンマーク人の数字は1963〜67年の4年間において調査したイヌイットと同じ年齢構成を当てはめて割り出した発症頻度(『もっと凄い薬効がわかった魚のEPA』より)
    いるという食生活の違いによるもので、イヌイットの血液成分を調べた結果、EPAがデンマーク人よりも多く、心筋梗塞を予防する成分であることが示されました。

    EPAは血小板の凝集を抑える作用や、血液中の悪玉コレステロールや中性脂肪を抑えて善玉コレステロールを増やす働きがあり、動脈硬化、脳梗塞、脳卒中、血栓性高脂肪血症、高血圧などのいわゆる成人病の予防・改善に効果があります。またEPAはアトピー性皮膚炎や花粉症、気管支ぜんそくなどにも有効といわれています。

    DHAは脳や神経組織の発育、機能維持に必要な成分です。人の体では脳細胞や網膜などに多く存在し、これが不足すると胎児や乳幼児の脳や神経の発達が悪くなったり、老化による学習能力や視力低下を招いたりします。DHAは人間の体内では合成されませんので食べ物からとる必要があります。

    EPAやDHAはマグロやカツオ、イワシ、サバ、サンマ、ブリなどの赤身魚に多量に含まれています。これらはイカにも含まれていますが、イカはイワシなどの魚類に比べて脂質含量自体が少ないので、EPAやDHAの含量も魚類ほど多くはありません。そのためこれらの効果を望む場合には、EPAやDHAを多く含む赤身魚を食べるのがいいでしょう。

    天然油脂の主な脂肪酸の融点と所在
    炭素数 : 二重結合数 慣用名 融点
    (°C)
    主な所在




    C16 : 0パルミチン酸63.1カカオ脂、動植物油脂
    C18 : 0ステアリン酸69.6カカオ脂、動植物油脂
    C20 : 0アラキジン酸75.3落花生油、ショートニング





    C16 : 1パルミトオレイン酸0.5魚油、マカダミヤナッツ油など
    動植物油
    C18 : 1オレイン酸14.0動植物油
    C18 : 2リノール酸-5.0サフラワー油、大豆油など植物油
    C20 : 5EPA(エイコサペンタエン酸)-53.8イワシ油など魚介類
    C22 : 6DHA(ドコサヘキサエン酸)-44.1イワシ油など魚介類
    (『わかりやすい食物と健康1』より)

    EPAは炭素数が20個で二重結合が5個、DHAは炭素数が22個で二重結合が6個からなる長鎖脂肪酸です。このように二重結合を2個以上持っている脂肪酸を多価不飽和脂肪酸といいますが、二重結合を持たない飽和脂肪酸に比べて融点が低く、しかも二重結合が多いほど融点が低くなるという性質があります。EPAやDHAを陸上生物は持たないのに、魚介類が持っているのはなぜでしょう。

    脂肪酸は細胞膜の構成成分ですが、これが固まることは生物にとって致命的なことです。海は平均水温が5°Cといわれていますが、魚介類は低温でも固まりにくい多価不飽和脂肪酸を持つことによって、低温の海でも生活することができるのだと考えられています。

    魚介類脂質の脂肪酸組成
    脂肪
    含量
    (%)
    脂肪酸 (%) *1EPA*2
    (%)
    DHA*2
    (%)
    飽和不飽和
    一価多価
    スルメイカ 1.213.73.924.112.940.2
    マイワシ 13.927.620.227.411.212.6
    マダイ 5.825.327.523.86.713.8
    サケ 4.116.240.122.36.512.5
    ウシ(ひき肉) 15.136.145.14.00.1微量
    ブタ(ひき肉) 15.137.843.311.400.1
    ニワトリ(ひき肉) 20.928.445.015.50.10.3
    *1 総脂肪酸中の%、*2 総脂肪酸中の%。
    (『五訂増補食品成分表2010』より)
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  • Q44
    冷凍と生鮮では味や栄養価に違いがあるのでしょうか?
    A

    魚介類は鮮度低下が速いので、それを防止するために昔から様々な工夫がされてきました。干物や塩蔵品、酢漬け品、佃煮、缶詰などの加工品はすべて保存のために生まれたものといえます。これに対して冷蔵・冷凍は加工を伴わない保存法であり、なかでも冷凍は魚介類をほぼ生に近い状態で長期にわたって保存できるという点でもっとも優れた方法として広く用いられています。しかし冷凍法も、魚介類の種類によっては、貯蔵中にタンパク質が変性したり、肉質がスポンジ化したりする場合があります。スケトウタラやカレイなどはこのような変化を受けやすい魚種ですが、イカの筋肉は水に不溶の筋原繊維タンパク質含量が高く、その繊維は太く緻密な構造をしているため、凍結しても組織が痛まないので、冷凍に向いているといわれています。冷凍に弱い魚種では、ドリップが多く出たり、肉質が変化すると味やテクスチャーが悪くなりますが、イカではそのような変化は少ないといえます。タンパク質の栄養価にも変化はありません。

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  • Q45
    生イカでもするめでも焼くといい匂いがしますが、あれは何の匂い?
    A
    少量だとよい匂い/量が多いと腐敗臭
    少量だとよい匂い/量が多いと腐敗臭

    イカを加熱するとトリメチルアミンオキシドという成分からトリメチルアミンやジメチルアミンが生じますが、これらが少量含まれていると加熱香気として感じられます。トリメチルアミンオキシドは海産魚介類の筋肉に多く含まれているエキス成分の1つで、サメやエイ、イカ類はとくに富んでいて、尿素とともに浸透圧の維持に役立っています。また深海にすむ生き物では筋肉を水圧の影響から守る役割もあると考えられています。

    トリメチルアミンは量が多いと魚に特有の腐敗臭として感じられますが、量が少ないとむしろ良い匂いとして感じられます。この成分はバラや菊の花の香りにも関係していて、香水にも調合されたりしています。

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  • Q46
    イカを焼くとなぜ丸くなるのでしょう?
    A

    イカを火であぶったり煮たりすると、縮んでくるくると丸くなります。その原因はイカの外套部の構造が魚肉とは著しく違うからです。

    スルメイカの外套部の表皮と筋肉の構造(『東海区水産研究所研究報告』より)
    スルメイカの外套部の表皮と筋肉の構造(『東海区水産研究所研究報告』より)

    イカの表皮は性状の異なる4つの層からなっており、1層目と2層目はあまり方向性のない網状組織で、第2層には色素胞があります。手で皮をむいた時、この層までは簡単にむくことができます。第3層は核に富む筋肉類似の網状組織です。第4層は縦方向に走っている繊維性の高い結合組織で、筋肉と強く結合しています。イカの筋肉を加熱すると表皮を内にして丸まるのは、この繊維が筋肉と結合したまま収縮するためなのです。

    皮をはいだするめは横には裂けやすいのに、縦には裂けにくいですが、これも筋肉の構造のせいです。イカでは表皮の内側に、体軸と直角方向に外套部をぐるりと取り巻くように走る幅の広い筋繊維層Aと、それと直角に(外から内へ)走る幅の狭い筋繊維層Bとが交互に存在しています。皮をはいだイカ肉が横に裂けやすいのはこのような構造のためです。

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  • Q47
    どんな食材にどんなイカが使われていますか?
    A

    するめの原料といえばスルメイカと思われるかもしれませんが、スルメイカが獲られ始めたのは18世紀後半のことで、それ以前はケンサキイカやヤリイカが主でした。塩辛の原料は1970年代までは多くがスルメイカでしたが、漁獲量の減少によって海外のアルゼンチンマツイカやニュージーランドスルメイカ、アカイカなどが使われるようになりました。

    魚介類は漁獲量の変動が大きいので、各種加工品に用いられる原料の種類も時代や海域ごとに、国際情勢も反映して様々に変化してきました。現在わが国のコンビニや量販店で売られている加工品にどのようなイカが用いられているかを、DNA鑑定で調べた結果によると、加工品の約半分がスルメイカで、ついでアメリカオオアカイカが多いとのことです。アメリカオオアカイカはペルー海域で2000年頃から漁獲量が増えている大型のイカで、俗に「あめあか」とも呼ばれています。

    加工品目別に見ると、冷凍食品にはアメリカオオアカイカ、スルメイカ、アカイカなどが使われていました。てんぷらやフライ、中華惣菜、カップ麺などの具材には、肉厚で身が柔らかいため多くの場合アメリカオオアカイカが使われていました。

    これをイカの種類別に見ますと、図のように、スルメイカは大部分が乾燥珍味向けで、その他に塩辛などです。アルゼンチンマツイカはほぼすべてが乾燥珍味に利用されています。アカイカは乾燥珍味と惣菜が半々、アメリカオオアカイカは、総菜、いかフライ、カップ麺の具、いかくん、くんさき、いかそうめん、シーフードミックス等、幅広く利用されています。

    ダイオウイカイカも調理次第では、食べられると考えられます。

    原料種別にみた製品の割合(『アメリカオオアカイカ利用拡大に関する提案』より)
    原料種別にみた製品の割合(『アメリカオオアカイカ利用拡大に関する提案』より)
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  • Q48
    いかの内臓は、食べられますか?
    A

    イカの内臓の一部は、「ゴロ」「肝」「ワタ」などと呼ばれ、肝臓は塩辛の原料となります。また、北海道や青森県には輪切りにしたイカの身に肝臓をまぶして煮込んだ「ゴロ煮」と呼ばれる郷土料理があります。

    いけすのスルメイカの活き作りの際、食べられる場合もあります。

    栄養面でも、肝臓にはタウリンのほか、EPAやDNAが含まれており、新陳代謝を促進するビタミンB群も多く含まれています。

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  • Q49
    「いかちち」ってなんですか?
    A

    瀬戸内海地方の市場でしばしば見られるものですが、これはコウイカ類の包卵腺《ほうらんせん》(または纏卵腺《てんらんせん》ともいう)です。コウイカは卵をブルーベリーくらいの大きさの袋に入れて、海藻や海底に落ちている木の枝などに産みつけます。多くのイカ類は卵を産む時、卵をジェリー状の袋(種類によって形はさまざまです)に入れて産み出すためイカの雌は卵巣とともにジェリー状物質を分泌する腺、すなわち包卵腺を持っているのです。包卵腺は産卵間近になると大きくなり、まるで魚の白子(精巣)のようにすら見えるので、これが雄だと勘違いしている人もいます。

    いかちち(岡山県市場)
    いかちち(岡山県市場)
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  • Q50
    さきいかの色の違い(白色・茶色)はどうしてですか?
    A

    さきいかは、戦前から干しするめを原料として作られていました。

    1963(昭和38)年に函館で皮を剥いだ生イカから製造する「ソフトさきいか」が考案され、ヒット商品となりました。これが白色のさきいかです。

    さらに1974(昭和49)年皮付きさきいか「函館こがね」®が開発されました。皮付きのまま焙焼加工するため、イカ本来の旨味と香ばしさがあり、水分も多く含まれ、しっとり感があります。この「皮付きさきいか」が茶色をしています。イカの皮を剥《は》ぐか、剥がないかの違いです。

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  • Q51
    いか徳利《とっくり》ってなんですか?
    A
    いか徳利(利波英樹提供)
    いか徳利(利波英樹提供)

    お土産品として古くから店頭に並んでいます。
    内臓を除いたいか胴肉(ツボ抜きのこと)を、乾燥の過程で空気圧や木型などを用いて徐々に徳利状になるように形を整え、乾燥します。

    温かいお酒を入れて、しばらくすると程よいイカの風味がでてきます。数回温かいお酒をいただいたら、「いか徳利」が柔らかくなりますので、そのまま容器もおいしく食べられます。

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  • Q52
    なぜ「するめ」っていうのですか?
    A

    墨をはく群れを「墨群《すみむれ》」と呼んでいたところから変化したという説のほか、いろいろな説があるようです。

    結納品として「寿留女《するめ》」と書き、昆布(小生婦《こんぶ》)とともに女性の健康や子だくさんを願う象徴とされています。

    なお、栄川省藏は『新釈魚名考』のなかで、イカの「イ」は強勢接頭語で「カ」は食(ケ)、つまり食用動物そのものとみなされると述べておられます。イカを漢字で「烏賊」と書くのは昔、中国には死んだフリして浮いているイカをカラスがついばみに来たところをやにわに海中に引き込んだという話があったからだと言われています。現在、中国語ではイカは「柔魚」と書かれています。

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  • Q53
    「干しするめ」(いわゆる「するめ」)はそんな昔からつくられていたのですか?
    A

    『延喜式《えんぎしき》』は927(延喜5)年に完成し、宮中の祭儀をはじめ、八省諸司の事務制度を明文化したもので、現在の六法全書のようなものです。その『延喜式』に、干しするめは「朝貢品」と記載されてあり、一般庶民には縁遠い高値の花でした。

    北条時代(1203〜1333年)には、干しするめの生産は道南、三陸、対馬、五島、富山、石川、佐渡に及び、「貿易海産物として長崎からコンブ、ナマコ、干しアワビとともに中国に輸出された」と伝えられています。

    特に長崎県五島周辺のケンサキイカを原料とする干しするめを「一番するめ」、スルメイカを原料としたものを「二番するめ」と呼ばれることがあります。

    干しするめ (社)全日本水産写眞資料協会提供
    干しするめ (社)全日本水産写眞資料協会提供
    呼子のケンサキイカ乾燥機(撮影:野々山浩)
    呼子のケンサキイカ乾燥機(撮影:野々山浩)
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  • Q54
    「するめ」のことをなぜ「あたりめ」というのですか?
    A

    するめは昔の儀式や結納《ゆいのう》の際の縁起物として使われてきましたが、これは室町時代にお金のことを「お足」といっていたことによるらしく、足がたくさんあるイカは縁起が良いということになったようです。また、するめは保存性のいい食べ物なので幸せが長く続くという意味にも通じます。結納の時には寿留女と書いて昆布(子生婦《こんぶ》)とともに使われたりもします。ただ、「するめ」という言葉は「お金を摩《す》る」ということにも通じますので、これも縁起を担いで、逆に「あたりめ」というようにもなりました。葦《あし》のことを地方によっては「よし」というのと同じことです。

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  • Q55
    「するめ」にすると成分や栄養価は生の時と変わるのでしょうか?
    A

    するめにすると当然水分は減少し、生の時の約80%から20%ほどになりますが、その他の成分に大きな変化はありません。タンパク質を構成しているアミノ酸組成も変化しませんので、タンパク質の栄養価も生のときと変わりません。するめは硬いので消化率が悪いのではと思われがちですが、皮付きのするめの消化率は約90%で、煮熟したスルメイカ(93.5%)や他の魚類と大差がありませんので、するめもタンパク質の良い供給源になります。

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  • Q56
    「するめ」についている白い粉はカビですか?
    A

    するめは水分20%ほどで、この程度まで乾燥した食品は腐敗もしませんしカビも生えません。するめの表面に白く見えるのはタウリンのほか、ベタイン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸が結晶化したものです。昆布や干し柿などの表面にも白い粉が吹き出しますが、昆布の場合はマンニトール、干し柿の場合はブドウ糖や果糖が主な成分です。いずれも食品に多く含まれているエキス成分が結晶になったものです。

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  • Q57
    イカの塩辛はどうして美味しくなるのですか?
    A

    塩辛の作り方は比較的簡単で、細切りしたスルメイカの胴肉・頭脚肉に、皮を除いて破砕した肝臓(肉量の5%程度)と10〜15%程度の食塩を加えて時々撹拌《かくはん》しながら漬け込んでおくのが伝統的な方法です。高い塩分濃度によって腐敗が防がれますので、2〜3週間ほど経つと、細切肉はだんだんと生臭みがなくなり、肉質も柔軟性を増し、元の肉とは違った塩辛らしい味や香りが生じてきます。このように食品の風味やテクスチャーが時間とともにできあがってくることを一般に熟成といいます。塩辛では熟成中にイカのタンパク質が筋肉や肝臓の酵素によって分解されます(このような現象を自己消化といいます)ので、グルタミン酸をはじめ種々の遊離アミノ酸が増加します。たとえばグルタミン酸は仕込み初期の50mg/100gから食べ頃には約600〜700mg/100gと10倍以上に増えます(図)。つまり、塩辛ではタンパク質が自己消化を受けてアミノ酸やペプチドなどになることで美味しくなるのです。

    熟成中のイカ塩辛(食塩10%、20°C)における主な遊離アミノ酸量の変化
    熟成中のイカ塩辛(食塩10%、20°C)における主な遊離アミノ酸量の変化
    (『魚の発酵食品』より)
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  • Q58
    最近は低塩分の塩辛が多くなっているようですが、昔と同じようにして作っているのですか?
    A

    確かに最近は塩辛も低塩分のものが好まれるため、塩分が2〜5%程度のものが多くなっています。このような低塩分ではイカ肉が腐敗してしまいますので、自己消化酵素によってアミノ酸などを生成させることができません。そのため、低塩分塩辛では、調味料を加えて味付けをし、腐敗を防ぐために保存料などを加えて作っています。昔の塩辛は常温で保存の効く発酵食品でしたが、最近の低塩塩辛は和え物に近く、要冷蔵です。食中毒・腐敗防止のためにも、これら両者の違いを十分理解して、保存方法などにも注意することが重要です。

    伝統的塩辛と低塩分塩辛の比較
    伝統的塩辛低塩分塩辛
    食塩濃度約10〜15%約2〜7%
    仕込期間約10〜20日約0〜3日
    うま味の生成自己消化によるアミノ酸等の生成調味料による味付け
    腐敗の防止食塩による防腐保存料・水分活性調整による防腐
    保存性高(常温貯蔵可)低(要冷蔵)
    製品の特徴保存食品和えもの風
    (『魚の発酵食品』より)
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  • Q59
    赤作り、白作り、黒作りって何ですか?
    A
    黒作り(黄色は柚子)
    黒作り(黄色は柚子)

    イカの塩辛の種類です。できあがった製品の色からこのように呼んでいます。赤作りはもっとも一般的な塩辛で、皮のついたままの胴肉を用いて作ったもの、白作りは皮を剥いだ胴肉で作ったもの、黒作りは富山の特産品で、イカ墨を加えて作ったものです。黒作りでは他の塩辛よりも貯蔵性に優れていますが、これはイカ墨にはリゾチーム様の酵素が含まれていて、腐敗細菌の増殖を抑えるためです。

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  • Q60
    イカをよく噛《か》んで食べると頭が良くなるって本当?
    A
    固形食群と粉末食群を条件回避学習させた時の回避率の比較(『イカの栄養・機能成分』より)
    固形食群と粉末食群を条件回避学習させた時の
    回避率の比較(『イカの栄養・機能成分』より)

    幼稚園児について調べた結果では、咀嚼《そしゃく》能力の高い園児は低い園児に比較して知能指数が高いという報告があります。また復唱テストを行った結果でも、記憶力と咬合《こうごう》力の間にも正の相関があることが知られています。

    食べ物を噛むということは単にそれを噛み砕くだけでなく、その時の噛み心地を刻々と脳に伝え、それに対応した運動指令が脳から口の筋肉に伝えられるという一連の動作が関係しています。その感覚は極めて敏感で、ご飯に混じった1本の髪の毛でも識別できるくらいです。つまり噛むこと自体が脳を刺激することになるのです。マウスの実験では固い餌を食べている時の脳内温度の上昇は0.4°Cで、これは粉状の食べやすい餌を食べている時の約2倍高いということが報告されています。

    生後8カ月(人では青年期に相当)まで固形食で飼育したマウスと粉末食で飼育したマウスを用いて迷路からの脱出試験をした結果でも、固形食群のほうが成績が優れていました。またマウスに電気ショックを与え、レバーに触れるとショックが解除される装置で条件回避実験をすると、やはり固形食群のほうが回避率が高いという結果が得られています(図)。これらの結果から咀嚼によって脳の働きが活発化して学習能力が高まったと考えられます。噛むという刺激が脳神経細胞の結合部分(シナプス)の機能維持や、シナプスの形成にも役立つという報告もあり、老化防止の観点からも噛むことの重要性は注目を集めています。

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